「ウーマンエンパワー賛同企業」事務局では、賛同企業様の施策の参考になればという想いで、
様々な企業事例や専門家の取材記事を掲載しています。
進行中の働き方改革。10年以上前からパイオニアとして取り組んできた(株)ワーク・ライフバランスの働き方改革実現説明会(17年8月)で、成功事例やアドバイスを伺ってきました。
(前編記事はこちら 働き方改革の法改正ポイントと施行後の準備ポイント3つ)
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働き方改革という言葉は広まってきたものの、自社を理解せず制度整備から入ってしまう、セミナーをやって満足してしまう、など、間違った働き方改革導入で失敗する例も見られる。
しかしワーク・ライフバランス社によると、今は、福利厚生や残業代削減という位置づけではなく、真の「経営戦略」としての働き方改革に移行している企業と注目すべき成果事例も多くなっているという。
◆残業代を社員に還元し報酬アップした企業
◆残業削減で業績が好調な企業
◆働き方改革で、女性管理職比率を増加させた企業
◆残業削減でメンタル疾患が減少した企業
◆残業削減で、社内出生率が上がった企業
◆働き方改革で、離職率が激減した企業
などさまざまな成果が出ている。
例えば、同社がコンサルティングに入った、不動産管理業の三菱地所プロパティマネジメント(株)では、働き方をカエルためのモニタリングユニットを選定し、働き方改革につながる施策をトライアルさせ、結果を全社へフィードバックし横展開した。
加えて、全社的には、モチベーションアップを図るための、表彰制度や働く環境整備等を推進した。
■カエル会議参加ユニット限定
1.定時退社促進・定時退社強化週間の設定・退社時のアラーム鳴動
2.執務環境改革・打合せ机にタイマー設置・部内BGMをかける
3.コミュニケーション活性化・月1回のカエルランチ・週1回の昼休み後共有 タイム
4.有給休暇奨励日設定と見える化により、全員が月1回以上の有給を取得
5.フレックスをきっかけに、意識改革を実現しプライベートの充実へ
■全社対応
1.残業事前申請
2.WEB会議
3.集中スペースづくり
4.会議や資料作成等、個々の業務の時間短縮・効率化を推進
5.「ワークスタイルチャレンジ」(表彰制度)を創設 ※チーム平均で有給取得80%以上、残業20時間以内(かつ残業60時間超え、または有給取得60%以下のメンバーがいない)を達成したチームには全メンバーに2~6万円の報奨金
これらで全社16%の残業削減を達成し、浮いた8000万円を原資に10の表彰制度で社員へ還元。
この成功ポイント3つは、トップが自ら意気込みを発信し社内の温度感を高めた点と、マネジメント層の強いリーダーシップの元、部署・個人ベースですぐ着手できる効率化や改善策を、スピーディに実施していった点(まずはやってみる)、そして、社内事務局が主体となってカエル会議にも同席し、必要に応じて関連部署やコンサルタントに相談し、チーム停滞を予防した点だという。
続いては、(株)かんぽ生命保険の事例。
長時間労働が常態化し、ベテラン社員に依存した業務運行であることを解決するため2015年から経営戦略の一環として、本社を中心として、働き改革に取り組んできた。
部下社員の時間外労働削減を含めた生産性向上を、本社部長の人事評価項目として明確化したほか、36協定の特別条項時間数の引き下げを実施し、更なる引下げを検討中。また、全管理職対象に意識改革セミナーを開催。トップから繰り返し必要性を社内報で発信したことで本気度がうまく伝わった。
本社内では、前述の朝・夜メール実施と集中スペース確保を全社展開し、平日は19時半以降、水曜の勤務時間外、休日における残業を原則禁止とし、原則外の残業を行う際には、部長(所属長)への承認を義務付けた。
結果、本社残業時間は対前年比約20%減。浮いたコストの一部を社員のeラーニング(自己啓発支援)費用で還元した。
アパレルのメンズ、ウィメンズ、キッズを取り扱うセレクトショップ業態(株)シップスでは、全店長に対して研修を実施。とある店舗では、まず週1~2回30分程度のカエル会議でお互いの業務を把握。慣れてきたら毎日10分程度にし、問題点の抽出をして改善実施、振り返りをして行動にということを習慣化させた。所要時間や優先順位は店長自らが全員にアドバイスした。
ここで衝撃だったのは、80以上ある店舗の残業理由の多くが「お客様のために」ということではなく、「店舗スタッフ同士のコミュニケーション不足や店長のマネジメント力不足」だったことだ。
誰もが意見をいいやすい工夫のある会議で普段は中々無い、学生アルバイトから店長に新たな提案があるなど、スタッフから本音を引き出せたことによる気づきは大きい。
その結果、社内は売上5億円増加、深夜残業38%削減、残業25%削減を実現。
繁忙期である年末年始セール中も前年比80%をキープした。
働き方改革実現のポイントは4つ。
<1>最初の一歩を急ぐべし
待ったなしの働き方改革はスピードをもって早急に取り組むことでブランディングの効果が期待できる。マイルストーンや期限をしっかり定めたい。
<2>社内の意識をしっかり統一すべし
階層によって必要認識が異なると取り組みが進まない。トップの強力な推進とともに、しっかり意識統一を図ることが重要だ。
<3>小さく始めて、確実な成果を出すべし
一気に成果を出そうとすると無理が生じて取り組みの揺り戻しが発生することも。自社の特徴をとらえた社内の成功事例をまず作ることが大切。
<4>持続可能な仕組みづくりをすべし
一時的に成果が上がってすぐ元に戻るでは意味がない。社内で持続可能な取り組みにこだわることが大切だ。
二児の母・時短で社内トップのコンサルタントでもあるワーク・ライフバランスの大塚万紀子氏に、
最近の事例や、中小ベンチャーにもできる働き方改革について聞いてみた。
大塚氏: 「ワークライフバランス=時間削減と思われがちですが、ライフでインプットしてワークでアウトプットしようという取り組みです。今は本当に人材不足。優秀な人材も能力発揮の場を探しており、以前のような給与ややりがいのある仕事という価値に加え、『働きやすさ』『長く働けるか』といった価値をよくみるようになってきた時代です。多くの企業や行政が、優秀な人材獲得と人材流出防止のため、経営戦略としての働き方改革に動き始めている実感があります。」
例えば従業員約60名の調剤薬局・(株)エムワン(三重県)は三重の優秀な人材が大阪や名古屋に流出してしまうという課題感があった。
4名の店舗にコンサルティングに入ったときのこと。店舗では管理職である店長が開店・閉店をすべてこなしており、部下は幸せなプライベートが想像つかない、休みをとっても何もしたいことがない、という状態だった。
そこで、もし休みがとれたら何をしたいのか?を付箋でメンバー同士で意見を出し合ったところ、旅行にいきたい、趣味のこういうことに時間をつくりたいといった意見が出て、お互いの志向を改めて確認することができたほか、周りの時間をつくってあげるためにも早く仕事を切り上げようという意識が高まった。
また、会議では、受け身で店舗で待つだけでなく、店舗横の工事現場の人たちにスポーツ飲料を持参してみようというアイディアが出て、やってみたところ非常に喜ばれ、また明日も持ってきて!という感謝をもらう経験をし、自分たちが役立てることはいろいろあるのではないかという仕事観の変化があり、役立つための工夫を考えるというサイクルがうまれた。
同社では、業務体制を見直し、他店舗への応援体制の整備を進めたり、スキル洗い出しと全社のレベルアップを実施した。狭い店舗環境でも、立ちながらでもカエル会議を続けたことで職場の意識や雰囲気を変えたのだ。結果として、ある店舗では医薬部外品売上230%、取組みチーム有休取得数が昨対比352%、従業員の出産数が2.5倍、結婚数も2倍になったという。
さらに、採用エントリーが年60名で苦労していたところ、年間160名の応募となって採用活動が1か月で完結できたという結果となった。
人材派遣の(株)リクルートスタッフィングでは、経営トップが限られた時間で賢く濃く働くことにフルコミット。評価軸を「時間当たり生産性」とし、業績MVP「ブルージャケット」表彰の選考基準に、「労働時間が枠内である」ことを追加した。つまり、チームで1人でも一定基準を超えた残業をしているメンバーがいれば表彰対象外。結果、深夜労働は86%削減、休日労働68%削減、女性従業員の出産数1.8倍、自己研鑽時間の増加1.6倍となった。
大塚氏は、小規模の企業も、その小規模ということが武器になると語る。
「『大企業だからできるんだ』ではなく、小さい企業は、逆に密な議論が短時間でできるのは強み、という意識になってもらいたいです。
例えば創業期・第2創業期は、スクラップ&ビルドで変化への抵抗が少ない時期。変化する体験そのものをいい文化にしていくチャンス。どんどんチャレンジして欲しいです。例えば、月1カエル会議から始めて、何を変えてみる?を議論したり、社内でファシリテーターを1~2人つくってみたり・・・。できることからやってみてください。
さらにスケールする成長期には、将来の人材採用を見据えた文化や制度作りを経営戦略としてつくっていく、というイメージですね。」
働き方改革は、順番が大事だという。
1.人が採れない
2.やめてしまう or ぶら下がる人材が出る
3.長時間労働
4.誤った成果主義
ここで、1.から絆創膏を貼ろうとしてしまう企業があるが、間違いで、4→3→2→1 という順序が大事だという。
前述のリクルートスタッフィングの事例のように、「時間当たり生産性」を評価軸にしない限り、短時間勤務者が評価されることはない。かかった時間×成果の分析が必要なので把握は必要だ。
大塚氏: 「人材奪い合い時代はもう始まっており、待ったなしです。『うちはまだまだなんです』と言い訳しているのはもったいない。小さいけどこんなことをしてこんな変化があった、など、やってみたことを自己承認して、ぜひ外にしっかり発信してみてください。社内外の声でまた反応がうまれ、いい循環がつくれたりします。
働き方改革に特効薬はありません。しっかり向き合っていくことが大事です。」
貴重なお話、ありがとうございました。
(株)ワーク・ライフバランス 大塚万紀子(おおつか まきこ) プロフィール
創業メンバー・パートナーコンサルタント。金沢工業大学大学院客員教授。豊富な知識をもとに現場の働き方にそったコンサルティングを提供、労働時間を削減しながら売上・利益を上げるなどの成果を出している。自らのコーチングスキルを活かしながら、多くの経営者と“経営戦略としてのワーク・ライフバランス”について対話を続け、ダイナミックな働き方改革を仕掛けることを得意とする。行政組織における働き方の見直しや、地域創生の鍵としての働き方改革促進についても経験が深い。主な顧客は経済産業省、㈱リクルートスタッフィング等。二児の母。
2017年8月
取材:ウーマンエンパワー賛同企業 事務局 (株)ママハピ
<過去の関連記事>
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