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経営課題としての女性管理職登用、今の課題とカギは?(スリール株式会社)

 

ウーマンエンパワー賛同企業」プロジェクト事務局では、さまざまな企業の取り組みや専門家の取材をしています。

 

今回もダイバーシティ推進のヒントを探るべく、2010年から女性活躍推進コンサルティングやワーク&ライフ・インターンなどの事業をてがけるスリール株式会社を取材しました。

 

「子育てをしながら仕事をしたい」という自然でシンプルな願いが、多くの女性にとって高い壁となっている現実を知り、大手IT企業を経て25歳でスリールを起業。もっと多くの人が当たり前に、自律的で自分らしく生きていけることを目指しているという代表取締役 堀江敦子さんにお話を伺いました。

事務局・谷平(以下、谷平):まずは簡単に事業について伺います。御社では様々な女性活躍推進に関わる体験プログラムをもっていますが、具体的にはどんな内容なのでしょうか?

 

堀江敦子氏(以下、堀江):個人には自律的にライフキャリアを描ける支援、組織には多様な人の能力が発揮できる環境づくりの支援をしています。例えば復職者×上司の研修では、育休中の社員と上司が一緒に研修を受けます。

育休中社員は3年・5年後にライフとキャリアをどう構築していきたいか整理し、どう相手を巻き込んだり交渉するのかを考え、上司側は育児中の人はどんな状況でどんなことにモヤモやするのか体験し、マネジメントを見つめ直します。これまで弊社の研修・講座には1万人以上の方に受講いただきました。

 

谷平大学生が「働くこと」×「家庭を築くこと」を体験して学ぶというワーク&ライフ・インターンは非常に面白い取り組みですが、学生たちはどんな学びを得ることが多いんでしょうか?

 

堀江:この10年で1500人以上が体験してくれましたが、「大変なんだけど自分でもできるんだ」と不安がなくなる方が多いですね。多くの人に愛されると子どもは幸せであるという実感や、周りに認められる経験を積んで、「失敗してもまた前に進む」エネルギーに繋がる学生がたくさんいます。

また、親との関係性に悩んでいた学生も「親も悩みながら自分と関わっていたんだ」とか、「自分は自分の人生を生きてもいいんだ」と気付きがでる学生もいます。コロナ禍は動画なども使ってオンラインで実施していますが、このプログラムは義務教育化したいと考えています。

谷平:本当に必要な教育ですね。子どもたちにも受けさせたい。

 

堀江:若者にも当事者意識をもって、こんな風に働きたい、とか、子育て両立はどう大変でどう働くのかを考えてもらうことで意識と行動が変化します。大学でも6校のプログラムに導入されていたり、行政の授業でも取り入れられており、京都では毎年250名以上が参加しています。

 

谷平両立不安白書2017では、92.7%の働く女性が両立不安を抱えているということですね。

 

堀江:うち半数近くは漠然とした不安や固定観念から、退職を考えたり子育てのため仕事を諦めようと考えています。

辞めてしまった方ではなく、その手前の不安を抱える人に施策をしないとだめなのだと行政もようやく気付いてくれたと思います。

 

谷平:企業の女性活躍推進に対して、現状はどういう課題や壁をもつ企業が多い印象ですか?

 

堀江:10年前から実施している企業は「女性活躍」という言葉を使わないくらい既に進んでいますが、近年は女性活躍推進法やESG投資などの動きから、経営課題としてやらなければならないという企業は確実に増えていると感じます。

一方で、行動計画の通り冊子を出して研修をやるのみ、という表面的な施策にとどまってしまう企業も。

女性取締役も社外取締役を増やすことにとどまっており、社内から登用するケースはまだ少ないです。

女性管理職の「パイプライン」をつくり、後に続く人が出る本質的な施策が今後の課題です。

やり続けないと変わらないので、違う世界が見えるまで何を言われてもやり続けることが大事です。

 

谷平:女性活躍という言葉がいいかは別として、取り巻く課題がいろいろとありすぎて何からどう手をつけていいかという状態ですが、例えば弊社はまず無駄と属人化を排除する業務改善、次に時短やリモートワークの整備をするという順番でした。堀江さんの考えはどうでしょうか?

 

堀江:全方位フルコミットしないと進まないと思っています。とにかく時短でもまずは女性管理職を増やす。そのためにも上司が変わるしかない。20~30%管理職に女性が入れば景色が変わります

10人中9人がランチにお寿司が食べたい!といってカレーは1人だけだったとするとお寿司に行きますよね。それがお寿司は7人でカレーが3人になると、2グループに分かれようか?などカレーが意見として認識される。女性管理職をまずは増やすことです。

 

谷平:ここによく、女性を無駄に引き上げるな、下駄をはかせるのはどうなのかという意見も出がちですが、どう考えていますか?

 

堀江:言い方は悪いですが、今まで優秀じゃなくても上にあがっていた男性も多数いたわけです。男女の採用数に対する昇進比率が圧倒的に違うのはバイアスや評価の仕組みに問題がある。例えば、残業をたくさんしている社員や、上司へのコミュニケーションが多い社員が昇進しているなどが考えられます。これは実は、これまでの昇進や評価へのバイアスを見直すことにもつながります。

 

谷平:女性側も自信がないという人が多い印象ですがどうメッセージしてますか?

 

堀江:「下駄をはかされるのがいやだ」という女性に言いたいのは、抜擢や昇進をされているのは、優秀だからであるということです。もちろん、会社としても能力のある人を上にあげます。管理職20~30%に女性が入れば景色が必ず変わるので頑張って欲しいですね。

 

男性ばかりの会議で1人女性だと、意見に怪訝な顔をされることもよくあります。パワハラ・セクハラ的な話で盛り上がられることも。

女性の割合が増えていけば、こういうことはなくなります。めげずに意見する。まだ少数派のなかにいる女性は嫌だろうけれど、変わるから踏ん張ってもらいたいです。

 

谷平:よくわかります。男性も女性10人のなかに1人入れられたら同じ気持ちになると思いますよね。

 

堀江:いろいろな生活をする人たちの多様な着眼点がイノベーションにつながるということは言われ始めていますが、なかなか体感できないので進みにくい。ですが、国際的にも日本の状況は批判されていて、人口的に同数がいる女性さえもマイノリティ扱いをしているようでは、優秀な人材は採用できなくなる、ということです。女性が辞めている企業はよく調べると男性も辞めていたりします。それは働き方や評価の仕組みに嫌気がさして転職している例も少なくありません。ここに気づくのが早いか遅いかですね。

 

谷平:働く女性側に伝えたいことは何でしょうか?

 

堀江:1つ目にとにかく自分に自信をもって!ということです。米国などもアンコンシャスバイアスはありますが、「あなたは大丈夫、リーダーになれる」と期待をちゃんと伝えているところが違う。日本は「いいよ、女の子は仕事とか勉強とかは」「周りに好かれるように控えめに」という教育になりがちで評価や期待をちゃんと伝えていないのです。

2つ目に、あえて子育てしたい女性にはマネージャーになって欲しい、と伝えています。手に職って大変な世界ですし、時間切り売りでは限界がありますが、子育てでも培われるマネジメント力は結果的に自分を助けてくれます。

 

谷平:自分で裁量をもって時間も自由なわけですからより子育てにはメリットがある立場なのは実感がありますね。

 

堀江:3つ目に勉強することも大切だと感じています。私も0歳児を育てながらいま大学院に通っていますが、男性や経営者と話すフレームやデータをもって交渉できると、伝わり方が変わります。それが自分の自信にも繋がります。女性の視点は本質的なことが多く、素晴らしい考えの方が多いです。このようなフレームを持つことで、社会により良い視点が採用されると考えて欲しいです。

 

谷平:ダイバーシティ推進を模索する企業にメッセージをお願いします。

 

堀江:「継続は力なり」です。この10年で、早く気づいて取り組んでいる企業をみると、変化は明らかです。子育てしながらキャリアアップできる環境を整えていると、どんな事情がある人でもキャリア自律を促せます。

女性管理職を増やし、育児中の方の支援にぜひ取り組んでください。

キャリアを続けられる支援をし、1年で戻ってきてと期待を伝える。そして、定時でも時短でも責任ある仕事を任せていく仕組みづくりが大切です。

 

経営者と上司のコミットがとにかく大事です。

3年、5年やれば社内の風土や意識が変わります。

 

谷平:力強いメッセージですね!ありがとうございました。

 

 

スリール株式会社 代表取締役 堀江 敦子

<プロフィール>

仕事と子育ての両立を体験するインターンシップ「ワーク&ライフ・インターン」の事業を展開。経済産業省「第5回キャリア教育アワード優秀賞」を受賞。

現在は、“子育てしながらキャリアアップできる人材と組織を育てる”をコンセプトに、企業向けに若手女性・復職社員・管理職向け研修を展開。

内閣府、厚生労働省など複数行政委員を兼任。

 

 

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