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競争戦略としてのD&I((株)リクルート)

ウーマンエンパワー賛同企業」事務局では、さまざまな企業の取り組みや専門家の取材をしています。

 

今回は、「個の尊重」という価値観を大切にし、競争戦略の一環として、トップコミットメントのもと、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)の推進に取り組んできたリクルートのダイバーシティ推進部 江藤部長にお話を伺いました。

Q.【事務局・谷平/以下、事務局】これまでのD&I推進の概要について変遷を教えていただけますか?

 

【ダイバーシティ推進部 部長 江藤様/以下、敬称略】2006年に専任組織を立ち上げ、まずは長時間労働の改善に取り組んできました。削減できる業務を整理し、労働時間削減の事例を増やしていきました。

 

2008年にはワーキングマザーの「両立支援」として、在宅勤務制度の導入、ベビーシッターの法人契約などを開始しています。

2010年には女性「活躍支援」を重点テーマとし、経営者候補のスキルやマインドセットの育成プログラムや、28歳の女性向けキャリア支援・イベントなどもおこない始めました。

 

その後、2013年から女性管理職の任用目標の設定と実績を公開し、グループ各社のD&Iを推進。2015年には「男女を問わない」柔軟な働き方の支援をテーマに、リモートワークの導入など本格的なワークスタイル変革に手をつけ始めました。従業員のリモート体制を整えるため、ワークルールや仕組み・制度・マネジメントの整備だったり、現場を巻き込みながら業務の効率化と取捨選択をしてきたりとハード・ソフト両面で進めてきました。

 

さらに2018年からここ数年は、介護やLGBTQなど、多様な事情やライフスタイルをもつ従業員が活躍できる環境づくりを推進している状況です。

 

Q.【事務局】リモートワークは結局、生産性が悪いとか、コミュニケーションが悪化したなどの声もきかれますが、どのような課題とアプローチがあったのでしょうか?

 

【江藤】やはりメンバーの状態が見えなくなるので、いかに進捗を確認するかというマネジメントのチューニングは必要でした。コロナ前はリアルが主で、リモートはサブだったため課題が顕在化していませんでしたが、コロナでフルリモートとなって、お互いが見えにくくなるという課題感が強く出たので、例えばグループウェアの活用の仕方も変わりました

今まではマネージャーとメンバーが1to1でメールしていたことを、いかに情報をフルオープンにしていくのかが大事となり、直接的に関係のないことも公開していくように推進してきました。いかにWEB上でも全員でお互いに、気軽に相談・支援しあえるチームをつくれるかということを勉強会でもシェアしました。こうした小さな積み重ねがリモートワーク環境でのコミュニケーションではとても大切だと感じています。

 

Q.【事務局】管理職比率50%の方針を出されましたが、どのように進めていかれるご予定でしょうか?

 

【江藤】この半年はまず実態を把握すべく、調査を進めてきました。リクルートでも女性のほうが男性に比べて管理職志向が低いという課題は感じていて、2030年に向けたポイントとして、2つ変えていきたいと思っています。

 

1つは、女性管理職のロールモデルが少ないことによる不安の解消です。組織によってモデル数の多い・少ないが異なりますが、ワーママ率は全体の3割にのぼっており管理職でも年々増えていますので、事例を増やしていきたいですね。

2つ目は、管理職の固定イメージ・要件を変えてもらうことです。短時間勤務制度を活用して働く管理職がいたっていいですし、もっと多様なモデルを輩出していきたいです。

 

創業者の江副のころから、リクルートには大前提に「個の尊重」という価値観があり、女性の雇用には積極的でしたし、性差に関係なく強みを生かしていくという思想がありました。D&I=生き残るための競争戦略であるという考えに対する異議は社内に特になく、推進をしていくうえで、その思想がベースにあると思っています。

 

また、今期から弊社では、会社はより従業員が成長できる環境にコミットしていこう、従業員は自律して自分もサービスも進化させていこう、チーム協働でそれを成し遂げていこう、という人材マネジメントポリシーに刷新しているのですが、もともとリクルートではこういう考え方を男女問わず持っている人が多いとも思います。こうした点も社内でD&I推進をする上で大きな力になっていると思います。

 

Q.【事務局】他職種より営業の管理職比率が低めであるという課題には、どのような施策を実施されているんでしょうか?

 

【江藤】営業職は女性ロールモデルが比較的少なく、仕事と家庭の両立事例が身近にないことから、2018年から「エイジョCafe」というワークショップを開始しました。部署をまたぐ女性管理職とのパネルディスカッションや座談会を通じて、勇気が得られたなど参加者からは好評です。

エイジョCafe

 

働いていると男女問わずいろんな悩みがあります。それを全て上司が解決はできません。所属組織や部署を超えた‘ナナメ’の関係がキャリアイメージや悩んだタイミングのヒントに重要だという文化は以前からあります。ダイバーシティ推進部主催でナナメの関係づくりの場をつくることもあります。気軽に話せる社内での関係づくりをぜひ活用してもらいたいと思っています。

 

Q.【事務局】先ほどの地道な情報シェアの仕方の変更やマネジメントのチューニングだったり、社内の相談できる人間関係づくりは企業規模に関わらず取り組めそうですね。他に好評だった取り組みはありますか?

 

【江藤】任意参加で28歳前後の女性向け「Career Cafe 28」という外部講師を招いた研修もあります。ライフイベント変化に漠然とした不安をもつ従業員が多いなか、自分の人生をどう歩んでいきたいのか?10~20年後のライフプランを描いてもらったり、自律的にライフイベントをどうデザインしていくのかを考えてもらうんです。例えば、女性が経験する可能性がある子育て期はどうしても心身ともに子育てに比重をかけなければならなくなる時期。そういう時期を見越して、「手前でキャリアの貯金」が必要だと考えています。そうしたことをこの研修で考えることで、前倒していろんなことにチャレンジしたりキャリアを描いたほうがいい、と気づく参加者が多いです。

Career Cafe 28

 

また、女性管理職になった後のフォローもしています。成果に自信が持てないとか、両立がやはりしんどい、という壁に当たることが多い時期。自分らしいマネジメントをしていくために、自身の強みの棚卸しをして、どんなリーダーになっていきたいか整理してもらいます。

「昔の自分の上司みたいにならなくていいんだ」などと気づいたときに、皆さん自分らしいリーダーをリデザインして自信をもってくれるので満足度が高いですね。

 

Q.【事務局】社内管理職向けに「VR」で育児と仕事の両立をする人の生活や心情を学べる疑似体験という取り組みも面白いですね。

 

【江藤】最初はリアルな実地研修として、研修参加者がお子さんを お迎えに行き、夕食を作って一緒に食べるところからだったのですが、研修に参加できる人数が限定されてしまうことから受講者を増やすためにVRを作成し、新たな研修を作りました。

例えばお子さんのいらっしゃる従業員が朝出社する前はどう過ごしているのか、16~17時に退社しお子さんをお迎えに行って帰宅後も何をしなければいけないのかなど、育児と仕事を両立しているメンバーを本質的に理解するための研修です。仕事面だけではなく、多面的にメンバーを理解することで組織として成果を最大化させるマネジメントに生かしていただいています。

 

Q.【事務局】男性の育休取得を最近の注力ポイントにあげる企業が増えている印象ですがそのあたりはどうなんでしょうか?

 

【江藤】人事からは取得するよう対象者にプッシュはしており徐々に取得率は上がっていますが、今後の注力施策については更に検討していくことになると思います。ワーパパのナレッジ共有や子育てセミナーもやっていて、若手を中心に取得したい意向が増えているように感じます。

 

Q.【事務局】D&I推進の取り組みを模索している企業さんにメッセージがあればお願いします。

 

【江藤】日本のどの企業もD&I推進担当はまだまだ孤独に模索しているところがあると思います。経営イシューとして実現していきたいことを現場と推進していく中には、これまでの日本の社会構造による課題を含めて難しさがあります。だからこそ、外部の担当と横のつながりを持ち、学びあっていくといいのではないでしょうか。例えば、弊社では保育園入園活動支援を企業横断で考える保活総研という場をもっているのですが、他社のご担当とナレッジシェアをすることで気づきや発見がたくさんあり、勉強になることが多いです。

 

今後も企業同士が情報や知識、それぞれの課題感を持ち寄って話し合いシェアし合えるような場所を持っていくことで、もっともっと日本のD&I推進が加速していくといいと思っています。

 

 

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