今回の取材では「夫婦の子育てとコミュニケーション」をテーマに専門家にお話を伺いました。
ママさんから多い声として、「夫婦であまり話ができていない」「けんかになりたくないからいいづらい」などがきかれます。自分が我慢して何とかしようとなりがちなママさんたちのヒントになれば幸いです。
取材したのは、NPO法人児童虐待防止全国ネットワークやNPO法人ファザーリング・ジャパンなど多くの団体の理事を務めるほか、多くの子育てに関する活動をしている高祖常子さん。
以前は夜中まで働くのが普通だった会社に勤務しており、体制も整っていなかったという高祖さん。時短取得者が夜の会議や決定事項に乗れないのは悔しいと感じて、フリーになったといいます。3人の子育て経験も踏まえて、「パパも巻き込む子育てや仕事の両立」についてお話をききました。
ママハピ・谷平(以下「M」):働きたい無職の妻 9割(総務省統計局「労働力調査(基本集計)」2016年平均データ)とのことですが、日本は未だ女性の管理職も少なく、家事育児時間も女性に大きく偏っており、いわゆる「ワンオペ育児」が課題となっていますね。
高祖氏:女性だけに家事育児が偏る「ワンオペ育児」は問題ですね。女性に負担が大きくなると、ストレスがたまり、子どもにぶつけたくなることもあります。また、男性が家庭にコミットしないことによって、家族にさまざまな問題が出てくる可能性もあります。
家族がGOODサイクルになると仕事にも打ち込めるということです。
つまり、おうちで子ども・パートナーと笑顔で過ごせることが仕事も前向きに取り組めるベースになります。
共働きが増えている時代だからということはもちろんですが、パパも「ワンオペ」ができることが、親の介護が発生したときや老後にも役立つし、家族として強いのです。
パートナーは一番の相談相手とする人は66.1%(子育てをどう感じているのかに関する調査/(株)コズレ2019)と親と同等くらいに頼っている人が多いようです。
そもそも日本は帰宅時間が遅いので、働き方からの見直しが必要ですが、肝なのは出産直
後から乳幼児期。
ホルモンの関係もあり女性の愛情曲線は出産後に下がりやすいもの(下図参照)。
熟年離婚につながる夫婦も多いので、出産直後から乳幼児期が重要なのです。
夫婦で育児をして喜びや苦労を分かち合い、一緒に乗り切ったという気持ちを持てることが大切です。
(出典:東レ経営研究所 渥美由喜氏提供)
ママが働くためにもぜひ楽しくパパを巻き込みましょう。
M:働きたいのなら、子育てがあるからいって「働く」を先延ばししないでとママたちにお伝えしているとききました。
高祖氏:正直、育児はいつまでたっても落ち着きません(笑)。入園や入学など、成長に伴って子どもが接するコミュニティが変わるたびに心配ごとが出てきます。
なので、もし働きたいという気持ちがあるのであれば、いつから働くと決めましょう。どちらかの病気や介護、リストラの可能性などを考えても、共働きはリスクヘッジになるうえ、売り手市場のいまは特に動くにはよい時期です。
そして、情報をたくさん集めましょう。ママ友からの口コミ、マザーズハローワーク、サイト検索など色々な手段を使ってみてください。
それから、復帰後の平日の1日について書いてみましょう。
何時から何時で働きたいから、そのために何時に起きて、何時に朝食かな、とかざっくりでいいのでスケジュールを書き出してみるとイメージがわきます。書き出したら、自分だけですべてをやらないということを意識して、見直すことが大切です。
M:ワークライフバランスの意味を誤解している方もいらっしゃるようです。
高祖氏:「仕事:プライベート=50:50が理想」は誤解です。
仕事100%の時期があっていいんです。子どもが小さいうちは育児に専念でもOK。これは自分自身のバランスと、パートナーのバランスについて、それぞれ希望を出し合って、すり合わせることが大事です。そして人生トータルのバランスを考えてみましょう。
ぜひワークライフバランスの現状を「寄せ鍋」をイメージして書いてみてください。
寄せ鍋だから、仕事だけの人よりも、いろんな具をもっている方が、ダシがおいしい人生になります!
色んなことに時間をとられる生活ですが、
「時間がない」を言い訳にしないために、身近な時間泥棒を見直すことも1つ。
不要な残業はもちろん、TVやネット、SNS、さがしもの、イライラ・ストレス、不規則な生活と体調不良、お酒や惰眠などの習慣などなども、すべて見直したい時間泥棒になります。
時間短縮と自分時間の技も有効です。
早起き、家電、生協、まとめ買い、いい加減家事、ファミリーサポートや一時預かりの利用、ママ友・パパ友力などなど、工夫できるところを見直してみましょう。
そのうえで、家事・育児は①手放せない・自分が引き受けたいもの②パートナーが得意なこと、やってること③パートナーに渡したい、やってくれると助かるもの の3つに分けて整理してみましょう。自分でやらないとイライラしてしまう!というものはストレス軽減のためにも(笑)自分でやったほうがいいのですが、それが多すぎないことが大事。
夫婦で相談し、相手が得意なものから少しずつ渡ししていきましょう。
パパがしている家事は1位ゴミ出し、2位風呂掃除、3位皿洗いとなっています。
逆にパパにしてほしいのは、順番に、遊び相手、お風呂に入れる、おむつ替え、寝かしつけとなっていますよ。
参考)6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間(1日当たり・国際比較)内閣府
M:なかなかもっと手伝って欲しいと思っていてもうまく相談できない方も多いようです。
高祖氏:「名もなき家事」例えば、食事の献立を考える、調味料の補充・交換、手洗い場のタオルを取り換える、子どもの学校準備や勉強をみる、などは妻がやっている家庭が多いのですが、照明の交換などは夫が担当という家庭が多いようです。(大和ハウス工業の調査)
分担に悩んでいる方は、いくつかの家事を丸ごとパパにお任せしてみましょう。
ゴミ出し1つとっても全体をやってみてやっと気づくことが増えます。部屋からごみを集める。分別する。収集日を把握して出す。指定のごみ袋を管理する。これが「ゴミ出し」です。
風呂掃除は、カビ対策も風呂掃除。石けん、シャンプーやリンスの補充まで任せましょう。丸ごと任せることで、そのミッションを担当した方が、名もなき家事も一緒にこなすことになります。
保育園や幼稚園の第一連絡先をパパに相談することも有効です。
これをファザーリング・ジャパンでは「ヒーロー登録」と名付けています。ヒーローは困ったときに一番に駆けつける人ですから(笑)。具合が悪い子どもの状況を知ることになりますし、迎えにいけない場合はママと段取りを相談することになり、自分も早く帰ろうと試みるなど、気づきもあります。お迎えを週1から分担することなども相談してみましょう。
そして、子どもも戦力です。
家事と子どもの遊びを融合するのも1つですよ。
園のハンドタオルなど小さなものから一緒にたたんでもらう、レタスをちぎったりプチトマトを並べるサラダづくりに参加してもらう、などからやってもらいましょう。お皿は3枚並べようね~なんて話をきっかけに数字の概念も学ぶことができます。
親の手間はちょっとかかるかもしれませんが、子どもにとってはお手伝いはクリエイティブな遊びで、生きる力に繋がります。
家事も子育ても経験が大事。パパにも相談や提案は具体的に伝える、現状を把握したらこれかこれをやってほしいと選択肢を提示するといいでしょう。
押さえたい所は最低限のやり方を説明。多少違っていてもおおむねOKだったら気にしないで任せることが大切です。「やってみせ 言って聞かせてさせてみて 誉めてやらねば人は動かじ」という山本五十六の言葉がありますね。そんな気落ちで実践しましょう。
M:まず伝えないと何も始まらないですが、「伝え方」も大事ですよね。
高祖氏:一般的に男性脳と女性脳は違う傾向があるともいわれています。パパとママのコミュニケーションは溝ができやすいものです。
男性は「今」が大事。現状と結果・結論が大事な傾向です。
女性は「今まで」が大事。「どんなことがあったか」など、それまでが大事なので経過に共感してほしい人が多いのです。
「子ども連れてこんなところに行って大変だったのよー」なんてパパに話を聞いてもらいたいだけなのに、良かれと思って「だったら連れてかなきゃよかったじゃん」なんてアドバイスしてしまうと、妻は心を閉ざしてしまいます(笑)。
そんな違いがあるからこそ大事なのは、コミュニケーションの仕方。
攻撃的に相手に伝えるのではなく、自分が悶々と我慢するのでもなく、「アサーティブ」な自己表現で建設的なコミュニケーションを心がけましょう。
アサーティブな会話とは何かというと、相手も尊重したうえで、誠実に素直に対等に、自分の要望や意見を就てるコミュニケーションのことです。
相手も理解しやすく受け入れやすくなり、話し合いを通じて新しい解決策が見えたり自分の要求が実現することもあります。事実と感情を分けてうまく伝えましょう。
例えば「なんで手伝ってくれないの?」というのは感情の爆発。
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事実「パパの帰りが遅く、食事は大変でイライラ」
こうしたいという気持ち・願望「笑顔で会話したり、ご飯を食べたい」
▼そんなとき要求の伝え方は・・・
「笑顔で会話したりご飯を食べたいから、夕食に間に合う時間に帰ってきて欲しい」
という伝え方にしましょう。
相手を否定・非難せず、肯定的に伝える。相手の立場や事情に共感して、プラスポイントを先に伝え、マイナスポイント(要望や改善点)をあとに伝えながら自己主張するということです。相手のどの言動がどんな影響を自分に与えているのか、今後どうしてほしいのか具体的に伝えましょう。聞いてくれたことや理解・協力してくれたことには感謝を伝えることをお忘れなく。
M:会社でも夫婦でもコミュニケーションのポイントは同じですね。
高祖氏:そうです。
・○○について相談したい、と時間を取って話す
・I(アイ)メッセージで具体的に伝える
○○の部分について困っている など
・提案と相談
○○という方法になりませんか?○○というやり方・時間の使い方をしてみたいのですがいかがでしょうか? などコツは同じです。
適切に要望・主張する力はとても大切。
そもそも言わなかったり、遠慮しすぎては伝わりません。
自分の気持ちをちゃんと伝える、コミュニケーションをとることで、
お互い尊敬し応援し合える関係になっていくでしょう。
ちなみに、1回言ったって相手はすぐは変わりませんよ。
子どももパートナーも何回も言って、少しずつ意識してもらうことからの長期戦。
数回言ってだめだったから、「私が我慢すればいい」「とりあえず頑張る」とか逆に「あきらめた」とかでは勿体ないです。
夫婦関係だって、「子どものために今を我慢している」という方が時々いらっしゃいますが、子どもにとってみたら自分のせいで人生を半分諦めたような考え方は迷惑ですよね。
やってもらいたいことがあっても、毎日が難しそうであれば、ハードルを下げてみる。まず週1回だけでもやれないか?と話し合ってみましょう。夫婦ともどうしても無理なら自分たちだけで解決せず、「ファミリーサポートを利用してみるか?」など、アサーティブな会話から違う解決策が見えることもあります。
「なんでわからないの?」で終わらず、困っていることを伝え、相手の気持ちと自分の気持ちのズレを理解し合い、「どのように解決できるか」を考える。それぞれの気持ちと解決のための行動を分けて考えて折り合いをつけてみましょう。
M:まずは伝え続けること、お互い伝え方を気を付けること、ですね。
高祖氏:そうです。家庭でも職場でも、わかりやすく、建設的に伝えましょう。
お互い居心地のいい場所、そこそこ楽しい家庭になっているかなと確認してみましょう。せっかく好きで家族になったんですから。
ママたちは「(前向きに)交渉する力」をぜひ楽しく伸ばしていってもらいたいです。気になっていることは自分だけが我慢したりそのままにせず、相談してアイディアをもらってもいいし、解決に向けて考え行動してほしいですね。
そして、人生はマイナスの選択をしないで欲しい。○○ができないからこうしよう、○○せねばならない、ではなくて、「○○したい。それを実現するにはどうしたらいいのか」という考え方で人生をより楽しくより良いものにしていってください。
M:パパさん向けの講座もよくされているそうですが、どんな内容がパパさんたちには響いているんですか?
高祖氏:先ほどの経過が大切な妻への話の聞き方に加えて、「言葉はプライスレス」と伝えています。今日のごはんおいしいね、○○してくれてありがとう、おはよう、などいくらいっても言葉はタダ。子どもに挨拶しなさい、人に感謝しなさいとか言いながら夫婦で言ってなかったら子どもは学んでいませんから、外に対して使うことができないでしょう。
タスクを可視化したりスケジュールアプリで行事を共有するなどももちろん有効ですが、言葉はタダですし、心の支えになる。要は、「気にかけているよ」「感謝しているよ」というメッセージになります。
夫が時間的・物理的に助けられない時も、精神的な支えや愛情表現があれば妻は意外と乗り越えられます。でも、やりがい搾取ばっかりにならないよう、注意しましょう(笑)。
子育ては期間限定のミッションです。子どもが忙しくなって一緒に出掛けられなくなる日もあっという間にきてしまいます。小さい時の成長に立ち会わないことの勿体なさをぜひ知っていただきたいです。できれば家事育児の経験は産後から最低2週間だけでも一緒にスタートして欲しい。フランスではそのような制度になっていますね。「夫婦一緒に子育てをスタートする」ことはその後、共に支え合う家族のベースとなります。
子育てアドバイザー/ NPO法人ファザーリング・ジャパン理事マザーリングプロジェ
クトリーダー
高祖常子
リクルートで学校・企業情報誌の編集にたずさわり、妊娠・出産を機にフリーに。
2005年に育児情報誌miku編集長に就任、現在は育児情報誌「ninaruマガジン」エグゼ
クティブアドバイザー。認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人子
どもすこやかサポートネット副代表理事、ほか各種NPOの理事、足立区男女共同参画
推進委員などを務める。子育て支援を中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っ
ている。著書は『こんなときどうしたらいいの?感情的にならない子育て』(かんき
出版)ほか。3児の母。
2020年3月2日
ママハピ事務局(取材:谷平)