「ウーマンエンパワー賛同企業」事務局では、参加企業様の施策の参考になればという想いから、さまざまな企業の取り組みや専門家の取材をしています。
今回は、女性活躍推進2.0を提唱し、様々な企業のコンサルティングや管理職女性向け「しなやかリーダー塾™️」を運営する(株)リノパートナーズ(東京都千代田区)代表の細木聡子さんにお話を伺いました。
Q. 細木さんはNTTで管理職として失敗を経て、マネジメント手法を大きく変更し成果を実感したとのことですが、具体的にどんな変化があったんでしょうか?
39歳の管理職なりたての頃、メンバー50人全員が男性、8割が年上という状況でした。なめられてはいけないと男性上司のマネをしてしまい、上から指示型のマネジメントをしていたところ、全員から「あなたがいるとロクなことがない」と信頼を失い、開発も進まずトラブルが続出で会社に行けなくなってしまったんです。
1カ月休職しながら「管理職は自分に向いていない」とやめようと思っていましたが、どこでボタンを掛け違ってしまったんだろう?と考えるようになりました。
そこで、自分がやりやすいやり方、自分らしいマネジメントをしたほうがいいんじゃないかという想いに至ったんですね。
Q. 自分らしいマネジメントというのはどういうものですか?
支援型・参加型のリーダーシップのことです。
初めての業務でわからないことが多いのに上からやれ!と指示型でやっていくのではなく、部下が気持ちよく働きやすく仕事ができる、才能を引き出す、という形を模索しました。
辞めるつもりだったのに休職した後に上司にも力をまた貸して欲しいと後押しされ、復帰を決めました。そこでまず、メンバーには今までの自分のやり方について謝りました。
少しずつ手法を変えてみて、周りとの信頼関係が徐々にできてくるのを感じましたね。
もう納品できないだろうと言われていたプロジェクトでしたが、何とか遅れて納品もでき、その後も数々のプロジェクトを成功させることができました。
信頼されていなかった私に、なんと「あなたのために仕事を頑張ります」「あなたと一緒に働きたい」なんて部下が言ってくれるようになり、管理職って本当にやりがいがあって素晴らしい仕事だと感じました。そして、管理職は「向き・不向きじゃない」んだなと。
変化の激しい時代に全てをマネージャー・リーダーが把握しているのは無理。よく知っている現場の人たちから引き出す関わり方がこれからの組織づくりに求められると実感しました。
Q. 女性の脳やタイプの傾向としても合っているスタイルですね?
個人差とは言えやはり男女の傾向はあります。女性の脳は人の考えていることを察する力、人の力を引き出す力が発揮しやすい。
これからの時代、女性が管理職になって組織を動かしていくことが未来を救うと感じました。
この実体験を元に、取り組みをもっと体系化して外で伝えていこう、2020年までに500人のしなやかリーダーを輩出しよう、と企業コンサルティング事業およびしなやかリーダー塾を立ち上げました。それぞれの会社のステージに合わせて中小から大企業まで支援しています。
Q. 「女性活躍推進2.0」を推進されていますが、今までと何が違うんでしょうか?
今までの女性活躍推進は、数を増やすだけになってしまい形骸化してしまっていることが多いように思います。
女性活躍推進2.0は、女性の自然体の力、素の強みを活かしていけば会社を救うことになり、本人の幸せにもつながるという考え方です。関わり方を少し変えるだけでものすごく変わる。
そして今の過渡期は女性にロールモデルはなかなかできない。自分がパイオニアとなり、後進のロールモデルになるということなので、強みを活かすマネジメントも伝えていきたいです。
Q. しなやかリーダー塾は男性も通っているそうですね。
はい、「自分の強み」発見シートを使って、人生グラフで自分の経験を振り返り、使えそうなスキルや資格、自分の得意なことを引き出していきます。
新型リーダーシップのスタイルで自分はどれが向いているか?を見つけてもらっていますね。また、男女の脳の構造の違いや思考癖、上司のタイプ別の伝え方なども学んでいきます。女性はわりと察する力、情報収集力、同時処理力など傾向として強い力もあります。かなり踏み込んで具体的に細かくどう対応するかを伝えています。
NTT時代にも、子育て中で時短の女性のマルチタスク力がすごいなと思い、業務を棚卸して周りの人にノウハウを展開して!とイベントを丸ごと任せたことがあります。そうしたらすごく頑張ってくれて成果も出してくれました。すると「第一線をはずれて自分のペースでできる補助仕事ばかりやるのはもったいない」という認識が広がって、時間短縮勤務の方への仕事の任せ方に変化が生まれ、全体の生産性も高まったという影響があったんです。
Q. イマイチ女性活躍推進の重要性が社会に正しく伝わってない気がしているんですが、どのように企業にお伝えされてるんでしょうか?
少子高齢化と第4次産業革命の到来で、日本の全ての企業がこのままではジリ貧になってしまうと言われています。
生産性をアップしなければならないし、新しい価値づくり・体制づくりをしてイノベーションを起こしていかないと今までのやり方では通用しなくなります。
今は利益が出ているから必要ない、という企業も既にジリジリきている。こうしてる間にもコストが増えていることを知って欲しい。まず対応できない組織で離職者が増えていくと採用・育成コストが無駄になります。
さらに、男性が多いと男性の働き方=残業ができる体質の企業になりがちです。ただ例えば1人1日30分残業をしたとして、光熱費などコストを計算すると50人で年間1180万円のコスト。100人、1000人の組織ではすごい数字になっていきます。
Q. イノベーションを起こし変化に対応する組織になっていくためにダイバーシティ&インクルージョンが必要だということですね?
多様な知識と知識の組み合わせがイノベーションを起こすポイントです。
できるだけ異質な人の組み合わせが望ましい。そのダイバーシティ&インクルージョンの試金石が女性活躍推進ということなんです。
男性視点のいいところと、女性視点のいいところを組み合わせて、「これまで以上の成果を出すこと」が目的です。「これまで以上の成果」というところがポイントですね。
残業時間だけを減らす施策をしてしまうと給与減だけだと言われかねませんので、人事評価の運用を”時間あたり生産性(与えられた仕事をこなしているのであれば、残業が少ない方を評価する等)”で行うようにするということも並行で実施することが大事と考えています。
これにより、社員にとっては日々の残業代は減ってもボーナスがアップしたり、昇格による昇給が見込め、モチベーションアップ→更なる生産性が向上、といった良いサイクルが回り始めると考えます。
Q. 最近発表されたジェンダー・ギャップ指数で日本は過去最低の121位でした。なかなか進まない背景は何だと見ていますか?
女性は家庭をみるべき、子どもは母が育てるべき、という文化的な背景が根強いからだと感じています。男性側も「自分は2番手」だと思っている。女性側が「主人に任せるのは申し訳ない」と感じている。
そういう方々にお伝えしたいのは、女性も自分がイノベーションを起こすべき立場にあるということです。意識を変える必要がある。
子どもが成長したころに日本がひどい状況にならないため、子育てだけでなく社会にも力を使って貢献してほしい。それが女性たちの使命なのです。
このお話をすることで、女性であるのが嫌だったけれどいい意味でラッキーだと受け止めて無理なく特性を強みとして活用しようと意識をシフトしてくださった方もたくさんいます。
性別は変えられないし、女性として見られるという事実も変わらない。だから、自然体で自分の適性を子どもたちのために、日本の将来のために、活用して欲しいです。
Q. 中小零細企業でもできる第一歩は何があると思いますか?
最初のアプローチとして、女性たちには何を求められているのか、何ができるのか、を自分なりに考えて行動してもらうよう仕向けてみてください。
効率化する、業務改善をするなど、経営側から任せてみるというケースも多くあります。
女性たちに文化的背景や、会社の存在意義を問いかけたりもしています。個人がよりよい生活環境を手に入れるために会社が価値を提供する。そして、会社の法人税は40%もある。保育園・学校、子育てや介護など、国の福祉はそういった税金がまわりまわって成り立ちます。私たちが稼ぐことで法人税を払うのが会社の使命。子育ても福祉も税金がまわらないと成り立たないという繋がりを意識してもらうことも重要です。
強みを引き出す関わりをしていくことで、少しずつ変わっていきます。
Q. 最後に模索する企業さんたちにメッセージをお願いします。
女性活躍推進は、男性を含めて全員でやることです。それが女性活躍推進2.0の考え方。
必要ない、だいたいできている、という企業も、本質的にはだいたいできていない。世の中の99%以上が中小企業です。大企業だって中小企業の支えで成り立っています。
今からすぐにでもとりかからないと将来だめになる。
管理職は男女ともにやりがいと感動の輪を感じられる仕事です。
男性も女性もそれぞれにいいところがあるのをお互いに融合しあってもらいたい。
限られた時間で最大の成果を今以上にあげるために、男女とも強みを発見してもらいたい、という想いです。
私は実感値をもって、その重要性が企業と日本を救うと心から信じています。一緒にがんばりましょう。
<編集後記>
細木さんが心から個人の力と多様性のパワーを信じている姿、実体験を元にした力強い言葉に元気をいただきました。貴重なお話をありがとうございました。
2019年12月 ウーマンエンパワー事務局
細木 聡子(ほそき あきこ)
株式会社リノパートナーズ代表取締役
公益社団法人 21世紀職業財団 客員講師
中小企業診断士/しなやかリーダー塾™️ 塾長
1990年筑波大学卒
大学卒業後、NTTに入社。管理職に昇格し、大規模システム構築プロジェクトのマネージャーに就任するも、部下がついてきてくれず、成果に結びつかなかった。周りに女性管理職ロールモデルがおらず、男性上司の真似をしたことにより違和感を与えていたということに気づき、自らしさを大切にしたマネジメントスタイルに徹底的に見直したところ、部下から圧倒的な支持を受け、残業0で成果2倍を達成する。その後、社員約500名のSE部門の人事・育成課長に就任。仕組み化による育成施策を展開したが、メンタルダウンする社員が増加してしまう。柔軟性のある育成が不可欠だと痛感し、個人の状況に合わせた寄り添い型の育成方法に切り替えたところ、メンタルダウンした社員をリーダーに成長させることに成功。
部門間・上層役員間・社外機関の調整役として抜擢され、人と組織をつなげるパイプ役として活動の幅を広げる。管理職経験10年間で述べ1,000人のマネジメントに携わり結果を残す。その後、元NTTでの管理職経験から得た独自のマネジメントメソッドを体系化し、年間1,000人を超える管理職研修を実施すると、受講者から「無理せずマネジメントができる」「具体的事例が役に立った」と支持を受ける。
2018年4月より、人材育成コンサルティング会社・株式会社リノパートナーズ設立し、代表取締役に就任。元NTTでの管理職経験で培った独自のマネジメント法をベースに女性管理職を育成する専門機関「しなやかリーダー塾™️」を開講し塾長に就任。
心から信じていることは、「人には無限の可能性がある」ということ。
特に、企業の豊かな成長には、柔軟でありながら芯のある、しなやかな女性管理職の存在が不可欠だと確信している。
しなやかな女性管理職が増えることが、仕事へのやりがいと感動の輪を広げ、全ての人が自分らしく安心して成長できる社会を作ることにつながる——。そのような社会作りを、本気で目指している。