「ウーマンエンパワー賛同企業」事務局では、賛同企業様の施策の参考になればという想いで、様々な企業事例や取り組みの取材をしています。
今回は、離職率が高いといわれる飲食業で、新卒入社の14名の離職は8年連続ゼロというライト・ライズ(印西市)寺本幸司社長と社員の方にお話を伺いました。焼き鳥や釜飯をお手頃価格で提供する居酒屋「とりのご助」などを6店舗、千葉エリアで展開。社員が23名、アルバイトが40~50人(2019年3月現在)ですが、人材難といわれている今も、社員は全員アルバイトから入社。人材は豊富で困っていないといいます。仕込み中の店舗に取材に訪問した際も、生き生きした楽しそうに笑顔で働く社員の皆さんが誰に指示されることもなく対応してくださり、活気と充実感がとてもにじみ出ている職場でした。
Q. 寺本社長はなぜ人が定着する仕組みをつくれたのでしょうか?
逆に「人ってどういう環境だと辞めるのか?」、それは、例えお金が良くても、将来に期待が持てない、今に不満がある、成長が感じられないなどではないでしょうか。
だから逆説的に、辞めない環境をつくろうと考え、根本的に大切な充実感と将来への期待を持ってもらえるよう努力してきました。
寿司店で修業していた自分の下積み時代は理不尽。正しいことを誰が言ったかで片付けられることなく、正しいことが受け入れられる風土のある組織をつくり、人を大切にしていこう、働いている人の幸せに貢献したい、と思いました。
最初は私の伝える力も弱くてきれいごとだと言われた時期もありますが、こんな会社をつくりたいと伝え続けて、価値観を共有できる人とやっていこうと。
Q. 離職率が高いイメージの飲食店でそこまで定着している背景は何でしょうか?
最初は「理想論でしょ」と言われましたが、「人本経営」という考え方を学ぶ団体で成果を出しているホワイト企業がたくさんあり、自分は間違っていなかったと自信にもなりましたね。
学んでいいと思ったことをたくさん吸収して、どんどん組織に落としていくという繰り返しでした。
例えばコミュニケーション活性化。お互いに「ありがとうカード」を贈り合うという小さな活動もありますし、月曜・金曜に行われる5人の幹部ミーティングでは会社のこと、個人のこと、悩んでいることを全て出し合っています。
私はほとんど決めません。リクエストで「こんなのしたい」を投げかけるくらい。制度とか特別何もないけど、みんなの幸せのために必要が出たら必要なことをつくっていくという形です。
Q. 具体的にはどういう社員との向き合い方をしてるんでしょうか?
正しい・正しくないではなく、間違ってもいいから発言することはいいこと。だから否定はしません。
その発言は会社批判ととられかねないという話をする社員も時々いますよ。でもまず「おーよく言ってくれたね」と承認します。その次に「今の伝え方だと部下にこういう風に伝わっちゃう場合もあるかもよ」「そしたらどう伝えたらいいと思う?」と要はコーチングしていっていますね。
あとは得意なことは何なのか?
それでわかりやすく認められる、つまり業績に近づくようなことに集中してもらえることをやってもらうようにします。極端いうとマネジメントやりたくない、掃除したくない、なんていう社員もいます。やりたくないことは苦手だったり必要と思っていないことだったりする。本気になればできるとは思うけど、必要と思わないからやらない。
だから掃除はやらなくても許してもらえるように他で貢献して、と得意なことに集中してもらっているんですが、結果的に掃除もやってくれるようになっていたりする。「やらないとまずい」は本人もわかってるんでしょう。得意な人がなかなかいない仕事は「お前しかいない!頼む!」と依頼してます(笑)。頼りにされると人は嬉しいのでやってくれているかな。
Q. 「この人に言えば受け入れてくれる」「きいてくれる」という安心感はあると社員の方は
おっしゃっていますが、人として大切に尊重されているというのが働く幸せに繋がっているんでしょうか。
まず否定しない。「へぇ」「そうなんだ」と承認する。
そこから、「なんでそういう考え方なの」と話をきいて吐き出してもらって、聞き手の正しい・間違っているよりも「そんなこと考えるようになったんだ」とその人の成長を喜ぶ。
そして、その人が考えたことと会社の根本の共通点を探ります。「何とかしたいと思った」の方向性が違うように見えても話をきいていくと根本の問題点は一緒だったりするので、その共通点を探ります。特に若手は表現が磨かれていないだけで、物事が否定や批判の言い方になっちゃうだけです。それに対して共通点をべ―スにこう思うんだけどどう思う?と話していくと、「やろうとしていることは一緒です」と答えてくれたりする。
社員の受け入れてくれる感、きいてくれる安心感というのは、そういう出た発言に対する対応、質問への答え方がとても重要だと思います。
相談にも「どんなふうに対応しようと思ってんの?」「お前はどうしたいの?」と意見を聞きます。そこから例えば、「今の伝え方だと聞き手はもしかしたらこう感じるかもよ?」など考えるきっかけの返答をしたり、凝り固まった考えはなるべく細かく切って、「ここはこういう意味でしょ?だったらここは一緒だよね?」「〇〇だけどどう思う?」などと会話していきますね。トラブルの大きさとその子の成長を天秤にかけて、すぐアドバイス的な話をすることもありますが、あまり私は口を出しません。基本は「きく」です。
Q. 以前はゴリゴリのベンチャーで、最初の10年はとても大変だったということですが、
なぜ変わっていったんでしょうか?
以前のゴリゴリのやり方は一時的なパワーはすごいけれど、みんなが疲れてしまいます。何十年も仕事をしていて、誰かにかけられるモチベートは自分に置き換えても疲れるなと。やはり日々の繰り返しにちゃんとした納得感と自分の中での充実感がないと続きません。
教育の最高峰は「憧れ」だと言いますが、私も20代中盤で出会った今は亡き師匠のようになりたいというのが原点でそういったあり方を意識しています。
きちんと受け入れて、根本的な考えを探って、ちゃんと修正してあげる。
努力をみてくれていて会社に必要だと教えてもらえて、みんなの役に立っていることが実感できる。それが心の充実であり、つまり安心感となり、その人の居場所になります。
うちは頑張っても「ありがとう」を言う以外にあげられるものがない会社でした。だからこの人と一緒にやっていこうと思ってもらえる満足感をもってもらうにはどうしたらいいか、どんな一言がもらえたら頑張ろうと思ってもらえるかを常に考えていました。
あとは「自分が自分の会社で一番下から働きたいと思うか?」
これは究極ですね。そう思えない理由があるならそこを変えればいいと思います。
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器の広いアニキとして慕われる社長の言葉は、家族・友人・上司部下などの枠を超えて「人としてのあり方」を考えさせられるお話でした。ありがとうございました。
ウーマンエンパワー賛同企業事務局
2019年3月